「峠」の語源など&国文学・民俗学の古本の無料出張買い取り中です

3月20日の日記で趣味の峠歩きのことを書きました。手元の資料を探していましたところ、国字である「峠」の語源を以前調べたノートが出来てきました。実は諸説あって一定ではありません。折角なのでここに列挙してみましょう。
※なお下記引用中の〔 〕内は、文脈を補うために当方が補足させて頂きました。また一部の旧字体はPCで変換出来ませんので、現代の字体に置き換えてあります。

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多牟氣(タムケ)とは越行(コエユク)山の坂路の、登(ノボ)り極(ハテ)たる処を云。其所(ソコ)にては神に手向けをする故に云なり。今ノ俗(ヨ)に此レを峠(タウゲ)と云は、手向(タムケ)を訛れるなり、

筑摩書房本居宣長全集」第十一巻「古事記傳二十五之巻 玉垣宮下巻」 P124。なお同上第十一巻「古事記傳二十七之巻 日代宮二之巻」P243にも類似の記述あり)

「たうげ」は「たむけ」より来た語だと云うのは、通説ではあるが疑を容るゞ余地がある。行路の神に手向をするのは必ずしも山頂とは限らぬ。〔中略〕「たうげ」も亦「たわ」から来た語であるかも知れぬのである。

筑摩書房「定本柳田國男集」第二巻「秋風帖 二 たわ・たを・たをり」P226)

松岡静雄氏の峠がタム(撓)カ(所)より転じたといふ説は至極穏当な理由をもつている。

(「峠」深田久弥編 青木書店1941年に収められた「峠の語源」P87〜P88 細野重雄著)

タオゴエのゴエがゲに音韻変化したものであろう。なぜなら、古くは万葉集の中にあるタヲリをはじめタワ・タオなどは単なるタワミ(鞍部)を表す地形語に過ぎないが、タオゴエには坂と同義の越えるという人間の行為が含まれており、今日の峠の意に一致するからである。

(「甲斐の山山」 「3 峠名由来考」P10 小林経雄著 新ハイキング社 平成4年発行)

昭和34年版『東駿地誌』には「遠越え」が峠の語源だろうとある。

(「峠と人生」?峠の文化P17 直良信夫著 NHKブックス 昭和51年発行)

私はこの説〔本居宣長の説〕に賛成することができない。また『言海』『言泉』に「たうげ、手向の音便」とあるのも賛成しかねる。ここにわれわれの最も注意すべきは、ウラル−アルタイ語系のことばである。[中略] 信州諏訪郡星ヶ峠は、ホシガトーと呼ぶのだそうである。トーも「たを」、「たわ」もももとより同じである。そしてこれらのトーの原形はタフ(タヲ)であろうと思う。前に述べたアイヌ語タプが、このタフに、オロッコ語のダンワリ、蒙古語のダバール、ダバがわがタヲリまたはタヲ、タワに直接、間接に関係があるのはもちろんである。

(「武蔵野の地名」 「多摩の語源 四 峠の考察」P27〜P29 中島利一郎著 新人物往来社 昭和51年発行より、なお初出は昭和2年脱稿となっている)

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峠についての書物はたくさんありますので、探せば他にも多くの説がみつかるだろうと思います。いずれも説にも頷いてしまいますね。皆さんは、いかがでしょうか?



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